木村忠正の仕事部屋(ブログ版)

ネットワーク社会論、デジタル人類学・社会学研究者のブログです。

拙著『ハイブリッド・エスノグラフィー』刊行

この記事は、拙著のパブリシティを意図しております。お読みいただく場合には、予めご承知おきください。

 2018年11月1日付で、『ハイブリッド・エスノグラフィー~ネットワークコミュニケーション(NC)研究の質的方法と実践』を新曜社より上梓しました。

新曜社サイトでの拙著の紹介

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https://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/978-4-7885-1583-3.htm

http://shin-yo-sha.fan.coocan.jp/book/1583-3.pdf

では、「はじめに」の抜粋もあり、拙著の立脚点、目論見の大要をご覧いただけますので、是非お目通しいただければと思います。

 抜粋にもありますが、拙著は、次の3つの関心領域が重なる合う地点での、小職の調査研究活動の積み重ねです。

  1. ネットワークコミュニケーション研究とそこでの質的(エスノグラフィー)アプローチの果たす役割
  2. 質的研究、エスノグラフィーに関する方法論的議論(他/多分野におけるエスノグラフィーへの関心の高まりと人類学における懐疑・模索)
  3. デジタルネットワーク拡大に伴う方法論的革新、とくに、〈定性〉〈定量〉を対称的に扱い、複合的に調査、分析を行う方法論(これを本書は「ハイブリッドメソッド」と呼ぶ)の必要性。

 つまり、拙著は、まず第一に読者として、「ネットワークコミュニケーション」、「エスノグラフィー」、「定性・定量混合(融合)方法論(mixed methods)」のいずれかのクロスに関心ある研究者を想定しています。

 本書に至る道筋は長く、その発端となる研究は2007年度の科研費(「サイバー・エスノグラフィーの方法論的基礎に関する調査研究」)、本書の構想を新曜社の塩浦社長にお話ししたのが2010年のことです。

 その後、紆余曲折、「遅々として進み」、本文を一通り執筆し終えたのが2017年8月。なるべく早くと思っていたのですが、かけた歳月の分、内容は多岐にわたり、分量ばかり多くなり、なかなか編集、校正を終えられず、今回、ようやく上梓に漕ぎつけました(ほんとうに、実感として、「漕ぎつけた」感じです)。

 拙著は「学術書」で、いかにも生硬な学術的議論を展開しておりますが、広く一般の方にも関心を持っていただけそうなのが、第10章「ネット世論の構造」です。 第10章に関連しては、すでに、いくつかの論稿を公刊しております。ネットでもアクセスできるものもありますので、ご覧いただければ幸いです。 

 上記論稿では、拙著がまもなく公刊されることを前提に、拙著を参照しております。とくに、具体的なニュースサイトコメント欄の精緻な分析は、拙著第10章でのみ展開しております。例えば、 

  • コメント投稿者が「尖った」少数と「穏やかな」多数に分かれ、「尖った」少数については、PRS(Positive Response Seekers、自分のコメントへの「加点」を求める投稿者)とIA(Insulting Attackers、罵詈雑言を投げつける投稿者)の具体的な様子を明らかに。 
  • 投稿者IDと投稿IPアドレスとのネットワーク分析 
  • 具体的にどのような記事に対して、いかなる投稿がなされたのか?「非マイノリティポリティクス」と筆者が呼ぶに至る、ネット世論の主旋律を構成する政治的な態度の具体的様相

といった分析です。 これだけでも拙著を別途見ていただく価値があると考えておりますが、「ネット世論」研究以外にも、ネットワーク・コミュニケーション研究という文脈における定量・定性を組み合わせた方法論と、若手研究者を念頭においた、具体的なリサーチデザイン、「ハイブリッド・エスノグラフィー」という方法、「ビジネスエスノグラフィー」、日米デジタルネイティブ比較により浮かび上がる日本社会の対人関係ネットワーク規模の分析、など、それぞれに、小職なりのこれまでの研究をできる限り詰め込んでおります。

 また、拙著は、1頁の収容字数をできる限り増やし、ソフトカバーにするなど、数多くの工夫をして、少しでも手に取っていただきやすい水準になるよう努力しました。 ここ10年程、格闘してきた方法論に関して、小職なりには、まとめることができたと感じております。皆さまには、何かの機会がありましたら、書店・図書館等で手に取っていただければ幸いです。

 最後まで目を通してくださり、誠にありがとうございました!