木村忠正の仕事部屋(ブログ版)

ネットワーク社会論、デジタル人類学・社会学研究者のブログです。

立教大学院社会学研究科がホット/クール??(志願者急増の謎)

 この記事は、立教大学社会学研究科の受験を考えている方を対象としています。予めご承知おきください。また、本記事は、「グローバル化の進展と文系大学院教育」で議論したことに多くを基づいています。まだご覧になっていらっしゃらない方は、是非、合わせてお読みください。


 まず下図をみてください。これは、立教院社会学研究科、一橋院社会学研究科、博士前期(修士)課程志願者数の推移です。2010年代、一橋は200~250名程度で推移しているのに対して、立教は30名程度から2017年度実施入試では初めて100名を越え、今年度(2018年度)実施入試は、秋季入試だけで80名近く、春季(2019年2月実施予定)を合わせると150名は優に超える予測です(6年で5倍です)。

 

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一橋院社会・立教院社会の志願者数の推移


 

 一橋社会学研究科は、専任教員が60名程度、修士課程学生定員90名超という日本最大の「社会学研究科」ですが、立教社会学研究科も専任教員は30名を越え、「社会学研究科」としては世界的にみても規模が大きく、多様な研究者を擁しています。他方、私学であることから、修士課程学生定員は20名と小規模です。大学院教育という観点からみると、一橋は学生数が多く、互いに切磋琢磨できる環境、立教は教員と院生との距離が近く、より丁寧に指導を受けられる環境、と特徴づけることができるでしょう。
 また、立教は比較的狭小な立地を活かし、図書館、院生室などの施設、院生が研究し、発表する機会支援(各種奨学金、学会発表・研究活動支援、紀要発行支援など)が充実していることも特徴です。

 カリキュラムでは、「プロジェクト研究」が修士で必修になっていることが特筆すべき点です。日本の人文・社会系大学院教育では、社会で求められる能力と大学院で身につく能力との整合性が大きな課題とされ、「他者と協働する力」「自ら課題を発見し解決に挑む力」などを涵養するため、「チームワークを重視したワークショップやプロジェクト形式による授業や課題」などの授業・研究指導実践が必要と指摘されてきました。

 「プロジェクト研究」という科目は、2014年度から導入され、特定課題に関する研究プロジェクトを、大学院生と複数の教員が協働して取り組むものです。計画の立案、調査の実施、結果の分析、報告書の作成というプロセスを経験する中で、社会学の研究能力を養成するアクティブラーニング型教育プロジェクトであり、上記のような人文・社会系大学院教育の課題に積極的に応えるものとなっています。(20181226追加)

 2010年代、立教院社会志願者増加が、こうした条件、環境によるのかは不明ですが(増加の原因はよくわかっていないのです)、結果として、下図にあるように、立教院社会は合格率が2割程度と競争率が高い研究科となっています。図から明らかなように、2012年度から2014年度は、立教と一橋はともに、合格率が3分の1程度で、定員の規模に応じた志願者数と合格者数だったわけですが、2015年度から、立教院社会は、志願者増加が顕著となり、合格することが難しい研究科となってきています。

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一橋院社会・立教院社会の志願者・合格者数、合格率の推移

 実際、昨今の例に漏れず、大学院で社会学研究科を志望していても、学部で社会学が専攻だった受験者はほとんどいませんが、入学している院生たちの知的水準は高く、知的欲求、学習意欲、修士論文に取り組む意思も強いものがあります。
 2018年9月、THE(Times Higher Education)の2019年版世界大学ランキングが公表されました。

World University Rankings 2019 | Times Higher Education (THE)

 下表は、ランキング入りした日本の大学上位校を一覧にしたものです。立教は日本の大学で21位(私学に限れば8位)、世界ランクで601~800位水準に位置しています。「グローバル化の進展と文系大学院教育」で、スペイン公的研究組織Consejo Superior de Investigaciones Científicas (CSIC)による"Webometrics Ranking of World Universities"(http://www.webometrics.info/)データを紹介しましたが、世界には高等教育機関が26000以上存在しており、世界ランク601~800位というのは、世界のトップ5%水準には入っているということです。

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THE世界大学ランキング2019(日本の大学上位)

 やはり、「グローバル化の進展と文系大学院教育」で議論しましたが、日本の大学院教育では、東大、京大、早大、慶大といったブランドの意味はなくなっています。拙記事の繰り返しになりますが、大学院レベルの研究では、指導教員の研究力・教育力、指導教員とうまくコミュニケーションできるか、円滑な関係を築けるかが決定的です。自分のやりたいことと当該教員とのマッチングを真剣に考えてください。
 立教院社会の特徴の一つは、学部で「メディア社会学科」を擁しており、メディア研究の専門家が多いことです。しかも、メディア史、テレビ、新聞、雑誌、グローバルメディア、表象、ソーシャルメディア、インターネットと多様なメディア研究の専門家が集積しています。小職は、文化人類学を出自として、インターネット研究に取り組み、ビッグデータにも積極的な研究者ですが、同僚の和田伸一郎先生は、哲学が出自でありながら、近年Pythonによる計量テキスト分析に「ハマって」おり、GoogleのTensorFlowを駆使されています。

 先に紹介した「プロジェクト研究」でも、小職と和田先生が共同で、IT企業の協力ももらいながら、大規模なソーシャルデータ分析に取り組んでいます。2020年度からは理学系研究科とも協力し、さらにパワーアップしたいと考えています。(20181226追加)「ハイブリッド・エスノグラフィー」など新たなデジタル社会学の展開を志したい、意欲的な人、大歓迎です。

 本記事を最後までお目通しくださり、ありがとうございました!