
本記事は、「メディア・コミュニケーション論」に関心のある学生の皆さんを念頭おいたものです。また、NotebookLMを用いた説明動画をYoutube(「メディア・コミュニケーション論への招待」チャンネル)にもアップし、筆者が立教社会で担当している「メディア・コミュニケーション論」の補助教材も意図しています。
本記事に対応した説明動画は、「SNSに惹きつけられる動因:社会的情報とは何か」です。
この点を予めご承知おきください。
はじめに
LINEやX、Instagram、BeReal.など、私たちは日々さまざまなSNSに惹きつけられています。改めて、その動因を考えてみましょう。
あの通知音に思わず手が伸びるとき、私たちが本当に求めているのは何でしょうか。「面白いから」「暇つぶしになるから」と説明することは簡単です。しかし、それだけならニュースアプリや動画配信サービスでも十分なはずです。それでも私たちは、「人がいる空間」に戻ってしまう。そこに何があるのでしょうか。実は私たちが求めているのは、出来事そのものの情報―‐新着ニュースや天気予報―ではなく、誰かが何かをした、誰かが何かを感じた、という情報ではないでしょうか。
- どの投稿がバズったか、
- 友人が昨夜どこで食事をしたか、
- 同僚が職場でどんな評価を受けているか、
- 自分は取り残されていないか、
- 見知らぬ誰かが今この瞬間に何を考えているか。
私たちがスマホ、SNSに強く惹きつけられるのは、こうした「他者に関する情報」「他の人がどう見ているかという情報」への飽くなき渇望が私たちのココロの底で強力に脈打っているからではないでしょうか。
研究者たちはこうした情報を「社会的情報(social information)」と呼びます。本稿では、この概念の学術的な源流をたどりながら、社会心理学における重要な理論展開を紹介し、最後に筆者の専門である文化進化論的な視点からその意味を考えてみたいと思います。
社会的情報とは何か
「社会的情報」とは、ひとことで言えば、「他者の行動・感情・意見・関係性に関する情報」のことです。しかしこの概念のより重要な含意は、単に「他者についての情報」という定義にとどまりません。
社会的情報をめぐる議論の核心にあるのは、次の洞察です。
人は、他者から得られる情報(社会的情報)を通じて、自己の状況、能力、行動などに対する認識や態度を形成する。
つまり、私たちは他者に関する情報を受動的に受け取るだけでなく、それを鏡として自己を理解し、自らの態度や行動を方向づけているのです。この観点は、現代のSNS研究から組織論、文化進化論にいたるまで、広範な分野で重要な位置を占めています。では、この洞察の学術的な源流はどこにあるのでしょうか。
源流としてのフェスティンガー――社会的比較理論
私たちが社会的情報を強く求める理由のひとつは、自分自身を評価したいという根源的な欲求にあります。「自分は仕事ができるのか」「自分の意見は正しいのか」「自分は料理が上手いのか」――こうした自己評価の問いに対して、明確な客観的基準が存在するケースはそれほど多くありません。体重は体重計で測れますが、「自分はセンスが良いか」「自分の政治的意見は妥当か」は、どうやって確かめればよいのでしょうか。
この問いに先駆的な答えを与えたのが、「認知的不協和理論」でも知られる社会心理学者、レオン・フェスティンガー(Leon Festinger)です。1954年の論文において、フェスティンガーは社会的比較理論(Social Comparison Theory)を提唱しました(Festinger, 1954)。
この論文が契機となり、多様な調査研究が「社会的比較理論」として展開することとなります。その洞察の核心は、人は自身の能力や意見を評価しようとする欲求を持っており、客観的な基準が利用できない場合には、他者との比較を通じて自己評価を行う。私たちは他者を「社会的な物差し」として用いることで、自分自身の位置や価値を測っているということです。
つまり、社会的比較理論は、他者と比較(他者を参照)することが、私たちヒトにとって、自分自身を理解し、行動の指針を得るためにいかに重要で、本質的かを示しています。フェスティンガーは「客観的基準がない場合に」と留保を入れましたが、その後の研究では、客観的基準があっても、他者比較・他者参照が、自己評価に重要な役割を果たすことが明らかとなっています。
では、人はなぜ他者と比較するのでしょう? 社会心理学的観点からは、自分の能力や成果を評価するため(自己評価)、より優れた他者を参考にして成長を目指すため(自己改善)、自尊心を高めるため(自己高揚)、行動の指針を得るため(行動指針)、そして他者とのつながりを求めるため(所属欲求)など、多岐にわたります。
比較の対象は、「類似性」が高いほど選ばれやすいですが、特定の個人であることもあれば、集団平均や想像上の人物であることもあります。また「比較の方向性」、つまり、「上方比較」「下方比較」が重要な役割を果たします。自分より優れている人を対象にする上方比較では、向上心やモチベーションを刺激する一方、劣等感や嫉妬につながりうる。自分より劣位と思われる人と対象とする下方比較では、安心感や優越感を得る効用があり、特にストレスや不安を感じ、自尊心を守ろうとする動機が働きます。そして、人は比較対象、比較の着眼点や比較の仕方を戦略的に選び、情報を取捨選択して、時には、自分にとって都合の良い解釈を行う傾向もみられるのです。
SNSのタイムラインを眺めるとき、私たちは無意識のうちにこの比較を行っているのではないでしょうか。友人の旅行写真、同期の昇進報告、見知らぬ誰かの洗練されたライフスタイル――これらはすべて、自己評価のための「社会的な物差し」として機能しうるのです。フェスティンガーの理論は、SNSが生まれる半世紀以上前に書かれたものでありながら、現代のデジタル環境を鮮やかに照らし出しています。
フェスティンガーが切り開いた「他者の情報をもとに自己を形成する」という洞察は、後の研究者たちによってさらに発展させられます。
その重要な一歩が、サランシック(Salancik)とフェッファー(Pfeffer)による「社会的情報処理モデル(Social Information Processing Model)」です(Salancik & Pfeffer, 1978)。彼らが焦点を当てたのは、職場・組織という文脈における態度形成です。
従来の職務満足研究では、仕事そのものの客観的な特性(給与水準、業務の複雑さなど)が、従業員の態度を決定すると考えられてきました。しかしサランシックらはこれに異議を唱えます。人は職務の客観的特性そのものよりも、周囲の人々(同僚や上司)がその仕事についてどのような情報を提供し、どのような態度を示しているか――すなわち社会的情報――に強く影響を受けながら、自らの仕事に対する態度を形成するというのです。
「この仕事はやりがいがある」「この職場の雰囲気はよい」といった判断は、仕事の実態そのものだけでなく、周囲からの社会的情報によって大きく左右される。この視点は、組織行動論や経営学に多大な影響を与えました。
ウォルサーのSIP理論――デジタル環境における社会的情報処理
このように、他者から得られる情報は、私たちの意思決定、判断にとってきわめて大きな役割を果たしていますが、オンラインを介する他者とのコミュニケーションが、対人関係形成に対して及ぼす影響にも、きわめて興味深い特性を見ることができます。1980年代から90年代、コンピュータやパソコン通信、遠隔会議システムなど情報通信技術(ICT)の発展を受けて、「コンピュータ媒介コミュニケーション(CMC: Computer mediated communication)」という研究領域が形成されました。初期のCMC研究では、CMCは対面コミュニケーションに比べて「貧しい」メディアとみなされていました。表情や声のトーン、身振りといった非言語的な手がかりが失われるため、社会的・感情的な情報の伝達が困難であり、人間関係の形成には不向きだという考え方です(例えば、Kiesler et al. 1984)。こうした議論は、「手掛かり濾過(cues-filtered-out)」論とも呼ばれます。
それに対して、ウォルサー(Walther)は、「社会的情報処理理論」(Social Information Processing Theory、SIPT)という興味深い理論を提起しました(Walther, 1992)。人はたとえ非言語情報が制限された環境であっても、利用可能な手がかり――文字の選び方、絵文字、返信のタイミング、メッセージの長さ――を駆使して社会的情報を伝達・解読し、やがて対面と同等の豊かな対人関係を築くことができると主張したのです。重要なのは「時間」の要素です。ウォルサーによれば、CMCにおける関係形成は対面より時間がかかるものの、時間をかければ十分に深い関係が構築できます。SNS上で見知らぬ人と交流し、深い友情や信頼が生まれることがあるのは、SIP理論が予測する現象そのものと言えるでしょう。
チャルディーニのソーシャルプルーフ(社会的証明)――「みんながやっている」という力
ここまでの議論は、主に「自己評価」や「態度形成」という観点から社会的情報の機能を見てきました。しかし社会的情報には、もうひとつ強力な働き方があります。それが、行動の選択に対する影響です。
社会心理学者チャルディーニ(Cialdini)は、その著書『影響力の武器(Influence: The Psychology of Persuasion)』(1984)において、人間の行動を動かす六つの原理のひとつとしてソーシャルプルーフ(social proof:社会的証明)を挙げています(Cialdini, 1984)。
ソーシャルプルーフとは、「多くの人がそうしているなら、それは正しい選択に違いない」という心理的傾向のことです。行動の正しさや適切さを判断するとき、私たちはしばしば自分の独立した判断ではなく、他者の行動という「社会的情報」を手がかりにします。
この現象は日常のいたるところに見られます。レストランの前に行列ができていると入ってみたくなる、レビューの多い商品を信頼してしまう、「98%のユーザーが満足」というコピーに惹かれる――これらはいずれもソーシャルプルーフが機能している瞬間です。SNSにおける「いいね!」数やリポスト数、フォロワー数は、まさに社会的情報を数値として可視化し、ソーシャルプルーフを意図的に誘発する設計だと言えます。
フェスティンガーが「自己評価のために他者と比べる」という動因を示したとすれば、チャルディーニは「行動の選択においても、人は他者の動向という社会的情報に強く引き寄せられる」ということを明晰に示したのです。両者はまさに、社会的情報が人間の認知と行動の双方に深く根ざしていることを、それぞれの角度から照らし出しています。
文化進化論と「誰から学ぶか」のバイアス
ここまでの議論を踏まえた上で、最後により根本的な問いを立ててみましょう。
そもそも人間は、なぜこれほどまでに社会的情報に敏感なのか。
近年の進化心理学や文化進化論の研究は、この問いに対して人類進化の文脈から示唆に富む観点を提供しています。本ブログの別記事(「セレブ(スター)」・「流行」の社会学)では、「流行」「セレブ」の議論として紹介しましたが、人類学者ジョセフ・ヘンリック(Joseph Henrich)らの議論は、この「社会的情報」が持つ私たちヒトへの強力な磁力を説明するものでもあります。
ヘンリックらによれば、ヒトがここまで種として繁栄したのは、「累積的文化学習(cumulative cultural learning)」により、他者の知識や技術を継承して、社会を発展させることができたがゆえです(Henrich, 2016)。私たちが現在享受している言語・道具・制度・技術のほとんどすべては、個人が一から発明したものではなく、他者から学び、世代を超えて蓄積されてきたものなのです。
つまり、私たちが生存のために学ぶ知識・スキルは、自分の経験、行動、思考のみで発見したり、身に着けたりすることができず、模範となる個体を見つけ出し、模倣することが重要となる特性を持ちます。そこで、「何を学ぶか」ではなく、「誰から学ぶか」という判断こそが、学習においてきわめて重要となります。人は無差別に他者を模倣するのではなく、いくつかの社会的学習バイアスを働かせながら「信頼できる学習対象」を選び取ります。ヘンリックらが提示する主要なバイアスは次のようなものです。
- 自己類似バイアス:自分と似た人(年齢、性別、出身地、趣味、考え方など)を信頼し、模倣しやすい
- スキル・バイアス:特定の技能において優れている人を優先的に模倣する
- 成功バイアス:社会的に良い結果を出している人、豊かな生活を送っている人を模倣する
- 威信バイアス:周囲から尊敬・注目を集めている人物を優先的に模倣する
そして、情報が不十分で、誰を信頼できるか分からない状況では、「多数派を模倣せよ」という同調バイアス(頻度依存バイアス)が働きます。ヒトは、集団内での意見や行動の分布に敏感であり、「何が多数派・主流か」を察知する能力を備えています。
これらのバイアスは、進化的な観点からはきわめて合理的な戦略でした。生存や繁殖に必要な知識を効率的に学ぶためには、誰を真似るかを見極めることが重要だからです。文化はこうした選択的学習を通じて、世代を超えて累積的に発展してきました。私たちが「社会的情報」に鋭敏なのは、「誰に学ぶ」かが生存上決定的に重要な意味を持つことが、その基底にあると考えることができます。
この観点から見ると、現代のセレブ文化やインフルエンサー現象は、まさにこうした社会的学習バイアスの現代的表現に他なりません。私たちが人気インフルエンサーの推薦する商品を購入したり、流行のファッションや言葉遣いを取り入れたりするのは、「成功者から学びたい」「威信ある存在に近づきたい」という進化的な欲求に突き動かされているからだとも言えるのです。
おわりに
社会的情報の系譜をたどると、フェスティンガーの社会的比較理論に始まり、サランシックらの社会的情報処理モデル、ウォルサーのSIP理論を経て、チャルディーニのソーシャルプルーフ、さらにヘンリックらによる文化進化論に至る一本の流れが見えてきます。いずれも「人間が他者の行動・評価・情報を判断の資源にする」という傾向を、それぞれの角度から理論化したものです。
SNSのタイムラインに流れる無数の投稿は、単なる情報の集積ではありません。それは、自己を評価し、他者と比較し、誰から学ぶかを判断しようとする、人間のきわめて根源的な欲求が生み出した「社会的情報の海」です。
この仕組みを理解することは、単に「スマホは依存的だ」と批判するだけにとどまりません。なぜ私たちがそこに引き込まれるのか、その背後にある人間心理と文化進化のメカニズムを理解する手がかりとなるのです。その通知音に手が伸びるとき、そこには数百万年の進化と、幾千年にわたる文化の蓄積が宿っているのかもしれません。
参考文献
Cialdini, R. B. (1984). Influence: The Psychology of Persuasion. Harper Business. (チャルディーニ、R. B. (2023) 『影響力の武器[新版]』(社会行動研究会訳)、誠信書房)
Festinger, L. (1954). A theory of social comparison processes. Human Relations, 7(2), 117–140.
Henrich, J. (2016). The Secret of Our Success: How Culture Is Driving Human Evolution, Domesticating Our Species, and Making Us Smarter. Princeton University Press. (ヘンリック、J. (2019) 『文化がヒトを進化させた』(今西康子訳)、白揚社)
Kiesler, S., Siegel, J., & McGuire, T. W. (1984). Social psychological aspects of computer-mediated communication. American psychologist, 39(10), 1123-1134.
Salancik, G. R., & Pfeffer, J. (1978). A social information processing approach to job attitudes and task design. Administrative Science Quarterly, 23(2), 224–253.
Walther, J. B. (1992). Interpersonal effects in computer-mediated interaction: A relational perspective. Communication Research, 19(1), 52–90.