木村忠正の仕事部屋(ブログ版)

ネットワーク社会論、デジタル人類学・社会学研究者のブログです。

立教社会SDS(ソーシャルデータサイエンス)が目指すもの

*本記事は、立教大学社会学部に関心を持つ方々、大学で社会科学的観点からデータサイエンスを学びたい受験生を念頭に置いたものです。また、筆者はコース準備責任者を務めておりますが、本記事は、筆者自身の個人的な「ソーシャルデータサイエンス」への考えをまとめたもので、所属組織としての見解ではありません。予め、ご承知おきください。

 

 本ブログでもすでに紹介しましたように、立教大学社会学部では、2025年度から、SDSコースをスタートさせます。周知のように、「ソーシャルデータサイエンス」は、2023年度に一橋大学が学部、研究科を開設しています。一橋の場合、「ソーシャル・データサイエンス」と、「ソーシャル」と「データサイエンス」の間に「・(なかぐろ)」を入れることで、「社会科学」と「データサイエンス」の融合と、現代社会の課題解決を指向する学術領域であることを示し、そうした課題解決に取り組める人材の育成を掲げています。

 この規定に見られるように、「データサイエンス」が革新的に進展することを受け、社会科学とデータサイエンスの融合を、という観点はよく理解できます。あるいは、日本では滋賀大学が2017年度に先鞭をつけた「データサイエンス」学部は、「データサイエンス」学科を含め、多くの大学で設置され、そこでは、文理融合、経済、経営、ビジネスとの連携、社会課題へのデータサイエンスの活用といった観点が強調される傾向を認めることができます。

 今回立教社会が開設する「ソーシャルデータサイエンス」は、社会学部の中のコースです。それは、「ソーシャルデータ」の「サイエンス」という意味と、「社会学的」「データサイエンス」の意味を重ねていると、筆者は考えています。「ソーシャルデータ」というと、21世紀、「ソーシャルメディア」が爆発的に成長し、人々の日常生活に深く浸透するに伴い、「ソーシャルメディア上のデータ」を指すようになりましたが、それ以前を考えれば、「社会的関係・言動・現象で生成されるデータ」を「ソーシャルデータ」と規定することができます。

 社会学という学術活動は、このような意味での「ソーシャルデータ」を対象とし、19世紀以来、様々なアプローチと理論を展開してきました。しかし、21世紀、人類社会の「ソーシャルデータ」は、質量ともダイナミックに拡張、変容し続けており、社会学自体、そうした拡張・変容に伴う社会的変化を探究するとともに、ソーシャルデータを収集、分析する理論と方法をヴァージョンアップする必要があると考えます。実際、例えば、LLM(大規模言語モデル)の革新とクラウドコンピューティングの発展により、先進的計量テキスト分析の手法(例えば、BERTopic sentence)を、文系学部生でも駆使することが可能となってきました。すると、大量のインタビューデータのトピック分類などが革新的に変化し、分析方法、リサーチデザインを根底的に見直すことが不可避となります。

 社会学は、アンケート調査、インタビュー調査などの社会調査方法論を発展させ、統計学と連携しながら、回帰分析、因子分析、構造方程式モデリング、マルチレベル分析など、高度なデータ分析方法を発展させ、多種多様な社会的事象の分析を展開してきました。こう考えると、現在、社会学にとって喫緊の課題は、「ソーシャルデータ」へのアプローチ方法、分析方法をヴァージョンアップし、社会学的「データサイエンス」を発展させることであり、学部生を含め、社会学徒にとって、そうした分析方法、アプローチは、教養の一部となっていくと、筆者は考えています。

 

 それを表したのが、立教社会のSDSコース紹介ウェブページに載せた概念図(右図)となります。つまり、立教社会のSDSは、社会学がこれまで培ってきた、社会学的思考、社会調査方法論を元に、データサイエンスを摂取し、社会学の地平を拡張することを意図しています。そこで、SDSコースは、コース生を別途特定の入試で選抜するのではなく、入学後に選抜することとし、コース生は積極的に、ソーシャルデータサイエンスを修得、実践するとともに、社会学部生全体に開かれた講義科目、演習科目を新設することとしました。

 

 すでに、筆者の研究室をはじめ、立教社会の複数の研究室では、Google Colabなどのコンピューティング資源も利用しながら、つい先日まで、きわめて専門的で高度先端的と考えられたデータサイエンスの方法を、学生自らが利活用し、社会学的思考と組み合わせながら、卒論、修論、博論等に取り組んでいます。このような積み重ねを踏まえ、SDSコースは構想されています。筆者としては、できる限り多くの立教社会生に、ソーシャルデータサイエンスに接し、それぞれの能力、スキルの一部として欲しいと願っています。

 最後まで目を通してくださり、ありがとうございました!