木村忠正の仕事部屋(ブログ版)

ネットワーク社会論、デジタル人類学・社会学研究者のブログです。

World Internet Project フランス国際会議

 WIP(World Internet Project)は、1999年から活動を開始し、2017年9月現在で東欧、中東、中南米地域も含む39カ国の研究チームが参加する国際的なインターネット利用行動調査プロジェクトです。

https://www.worldinternetproject.com/

 WIP日本チームは2000年からWIPに参加しており、日本のインターネット利用実態について調査研究を行っています。

 WIPは毎年国際会議を開催しており、2018年は、この7月2日~6日、フランスで行われました。日程の関係で、パリの行事には出席できませんでしたが、小職は、Brestでの会議に出席し、2つの発表を行いました。

 小職は日本チームの一員として10年近く活動していますが、WIP国際会議に出るのは初めてでした。この国際会議は、通常の大規模な学会のように、たくさんのプログラムが並行して走るのとは違い、30人程度の参加者全員がすべてのセッションに参加し、Brestだけでも3日間、時間と場所をともにして、研究発表、プロジェクトの進め方に関する議論を、ひざを突き合わせて行います。長年にわたる国際共同プロジェクトで、互いによく知っている研究者たちと同時に、小職のように初めて参加する研究者たちもいますが、会議を通して、交流を深め、互いをよく知ることができます。

 今回は10か国から研究者が集まり、それぞれの研究成果を共有しましたが、強く印象づけられたのは、スマホの普遍性と利用の個別性です。スマホは、いずれの主要産業国においても、成人での利用率8割から9割に達しており、2010年代、私たちの生活を大きく塗り替えてきています。ただ、具体的にどのようなアプリ、利用法が、どう拡がるかは、社会文化によって大きく異なります。ここでは、印象深かったスウェーデンチームの報告を少し紹介します。
 下図をみてください。これは、

cartina.se

 にある図ですが、年代毎の主要ソーシャルメディア利用率です。
 それぞれのグラフの左から、
YoutubeFacebookSkypeInstagram、Snapchat、LinkedIn、WhatsApp、TwitterPinterestReddit
ソーシャルメディアを表し、
利用率の縦棒で、上がやや薄く、下が濃い色になっていますが、上部が1日1回未満、下部が1日1回以上の割合を示します。

 

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 Youtubeが75歳までで最も利用率が高く、とくに12~25歳では利用率100%、毎日アクセスが7割~9割と高頻度利用ですが、20代後半からは毎日利用は激減します。Facebookは高齢者でも半分程度の利用率があり、しかも毎日アクセスする人が(10代前半を除いて)利用者の半数~8割程度を占めています。個人的にはInstagramが中高年層にまで利用されていることと、Snapchatが10代から30代前半Twitter以上に利用率が高いことが意外でした。

 話をきくと、Instagramは、日本のように、少し着飾った、晴れのメディア(日本では、「インスタ映え」のように、インスタにやや非日常性を求める面があると思います)ではなく、日常的な写真共有サイトとして利用されているようです。Snapchatは日本ではやらないのがむしろ謎で、世界的に見て10代を中心に利用されていると思います。また、面白かった逸話は、発表したスウェーデンの研究者の場合、大学生のお子さんと、FacebookInstagram、Snapchatではつながっているそうですが、Twitterは、ブロックされたそうです。それぞれの社会で、多様なソーシャルメディアが、独自の社会文化的文脈を形成し、人々に利用される様子は、文化人類学が知的出自である小職にとって、とても興味深いものです。

 ところで、Brestはパリから600キロほど西、フランスの西端で、軍港がある人口14万人ほどの穏やかな街でした。日本人には一度も会いませんでしたが、Brestにも、面白日本語表記はありました。「Superdry」というスポーツウェアのブランドの店ですが、写真にあるように、「極度乾燥(しなさい)」という日本語が添えられています。

 

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 また、ココロ温まる出来事もありました。
 ホテルから会議場まで、2キロほどですが、トラム(路面電車)がちょうどうまい具合に走っていたので、トラムに乗ることにしました。ところが、乗車券をどこで買って、どう乗ればよいか分からず、駅で待っている中年男性に教えてもらうため、声をかけました。
 彼は「何回乗るのか?」ときくので、「1度です」と答えると、彼はジャケットのポケットから、乗車券(紙のカード)を出して、「これをあげるから、使って」と言いました。
 話を聞くと、彼のカードは「10回券」で1回分残っていました。そこで、あと1回分を小職にくれたのです(1回券だと1.6ユーロ、10回券だと1回分は1.25ユーロ)。
 さて、2日後、少しずれた時間帯で、またトラムに乗ろうとしていると(今回は勝手がわかっていますから、乗車券はすでに持っています)、あの男性がまた現れたのです!小さい街で、通勤時間帯ということが幸いしました。嬉しくなって、写真を一緒に撮らせてもらいました!(あえて、supersmall(極度小型)にしてます)

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 人類は「社会的動物」です。社会=国民国家の役割は依然として大きいわけですが、人類社会として、互いを尊重し、ヒト同士が交流することもまたとても重要であることを、今回改めて認識しました。文化人類学徒として、多文化社会、共生社会を自明視していた面もあるのですが、21世紀、グローバル化、ネットワーク化の進展は、異なる社会集団同士、互いに差異を明確にし、「自社会ファースト」の傾向もまた強めているように思います。やはり、一人ひとり、多様な人々と交流することが、国際社会を形成する礎であり、小職のゼミ生たち、立教の学生たちはじめ、内向きといわれる現代日本社会の若い人々には、積極的に国外に出かけて、交流してほしいと強く願います。

 今回も、最後まで目を通してくださり、ありがとうございました。